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【ウォーキング・エロティックの箱庭世界
〜ぼくはきみを忘れない】



「エロスが立った!」
 
 白上めりとが歓喜したのは訳がある。
 不治の病に冒された村の長老の双眸は、まだ辛うじてエロスを探し光を宿していた。
 そのひとみがまだ黒い内に、白上めりとは成長したウォーキングエロティックの姿を見せられるか――
 
「エロスが立った!」
 
 長く待ち望んだその瞬間が、今ようやく訪れたのだ。
 めりとは転がるように村長の家へ駆け込んだ。
 長雨そぼ降る、やや肌寒い四月の出来事であった。
 
「エロスが勃った!」
 
 彼のくちびるが彼の祖父に吉報をもたらしたとき、祖父は三年間寝込みつづけた灰色の布団から腹筋だけで跳ね起きた。
 血色衰えて久しい肌には張りとつやがよみがえる。
 老いさらばえて落ちくぼんだひとみが、深いしわの中で在りし日の少年が如くかがやいた。
 めりとは、長老――彼の祖父を一瞥して、叫んだ。
 
「ウォーキング……エロティイイック!!」
「おお……孫よ! よくやった!」
「師範代!」
「よくぞ……よくぞここまでエロティック……我が、我が自慢の孫よ」
 
 玄関を蹴破って村民がなだれ込んできた。
 せまい庵のなかで人びとは歓喜に沸き返る。誰も彼もが、雨上がりの虹のようにかがやいているではないか。
 そう、それは第十三代ウォーキングエロティックの誕生。
 あまねく村民達、そして白上めりと。

 否……かれはもうめりとではない。
 かれの姿はむつまじき秘め始めの象徴。緋色がかった桃色をまとい全身の輪郭、フォルム、芳香、目つき、表情、すべてにおいてエロティックを体現した白上めりと――否、第十三代ウォーキングエロティック。
 力強い生命の営み。
 かれは十三代目にして、史上最高とも呼べる極上のエロティックを手中に収めてみせたのだ。
 
「めりと……否、儂は御主のことを、もはやめりと等と呼ぶことはできぬ……」
「え? 師範代?」
「馬鹿者! 御主はもう……ウォーキングエロティックであってそれ以外の何者でもないのじゃ」
 
 老爺の細い身体がゆっくりと傾いていく。
 愛する祖父に駆け寄るウォーキングエロティック――だが、かれのひとみには、もはや祖父はおろか夢も現も映ってはいまい。
 かれはシュレーディンガーの箱を開けてしまったのだ。
 自分自身のエロティックという、決して開けてはならなかった禁断の箱庭世界を。
 
「ハハハ、我が孫よ……儂の使命は、終わったようじゃ……」
「おじいちゃん! 師範代! 第十二代ウォーキングエロティック!!」
 
 十三代を襲名したばかりの若きエロティックのエロティックな雄叫びは、枯れ果てた老爺の耳に届かない。
 村民達も叫ぶ。
 悲痛な声が飛び交う中で、床にくずれ落ちる寸前に長老の身体はめりとの腕に抱かれた。
 
「めりとよ……儂の倍、御主はエロティックになるが良い……」
「師範代! 十二代えろてぃいいいいぃぃぃっっっっっく!!!!」
 
 
 
 し……
 
 しんじゃやだあああああああああああああ!!!!
 
 
 
 
 
 ――そのとき、長く降りつづいた雨が上がっていった。
 うすぎぬのような白い陽光が差し込んでくる。

 二人の男の頬に、涙が光っている。
 希望の光が降り注ぐ中で、ひとつの伝説が今幕を閉じた。
 
 だが、誰もが知っている。
 めりとの頬を流れ落ちたのは、決して悲しみの涙などではない。
 清らかな桃色の涙は疑いなく、若き第十三代ウォーキングエロティックによる新たな歴史の幕開けだったのだ。
 
 この世にぴゅあが栄える限り、ウォーキングエロティックは何度でも蘇る。






 ウォーキングエロティックの生き様をみんなに伝えたくて、
 ぼくは小説を書くことを決意したのです
(2010年04月18日)