【東方伊呂波唄】




伊勢神宮の賽銭に 羨む視線の刃が刺さる
 あの神この神どの神を 祀れば入るやあの金額
六条七条通り過ぐ 京の数多の賽銭箱も
 持つに木箱の重すぎて 押せど押せども動きなし
博麗神社の赤鳥居 詣でる人の影ひとつ無く
 あれは涙か牡丹雪 霊夢の頬にもひとしずく


鈍く輝く月浮かぶ夜に 家に篭もりて作る丹に
 魔理沙の努力大集結 全ての家事は丹の次だ
星降る夜も雪降る夜も 紙に連ねる知恵工夫
 三歩進んで二歩下がる 弛まぬ努力の賜物が
部屋の仄かな蝋燭の灯に 照らされ遂に出来上がり
 …けどこりゃデカイよデカすぎる 残念これでは大失敗
トホホと落とすその肩に 冬の寒さがひしひし凍みる
 残念無念、完成は またこの次のお楽しみ
  

血濡れの刃に笑み妖し 全ては愛しきお嬢様の為
 滴る紅き血の雫 私はこの手を汚しましょう
慄然たるや血の海に 無残に肉の欠片散る
 これしきのことは厭わない 全ては愛しきお嬢様の為
塗り絵の如く赤一色の その惨劇に飽き足らず
 血肉を業火の焔に燃やす 全ては愛しきお嬢様の為
累々連なる屍超えて 遂に作ったローストチキン
 戦場の如き調理場も 華やか聖夜の裏舞台
お味見したらでも何となく イマイチなんだか旨くない
 嗚呼お嬢様すみません 至らぬ私の腕のせい
  後悔すれども時遅し 行っときゃよかったケン○ッキー


我が世は常世の過去帳に 刻む文字すら何を意味せん
 死して生きゆくこの道の果て 待つは希望か絶望か
かかるあの世も正月迎え てんてこ舞いの御節作り
 祝うこの日のめでたやと 嬢の注文五人前
世隔つ前の富士見の娘も かくなる量を食べけるかなと
 馳せる思いは遠き昔の 黒豆煮ゆる御鍋かな

   
玉響ほどのいとまにさえも思い出す 夜空に浮かぶ月都
 太古の罪は覚ゆる者も 今如何程に世に在らん
歴史は消えざるものなれど 忘れ果てたか永遠亭
 誰一人とも日もすがら 露ほどさえも覚えなし
それ責むる者もあらざれば 今は幸せ極楽浄土
 ニートの揶揄もなんのその 姫はひねもす屋敷に篭もり、今日も兎と戯れる
  跳ね駆け回る冬の庭 あれに見ゆるは世も珍しや ニート属性雪兎 

 
常なることと耐え忍び 働く様ぞ哀れなれ
 人は言いけるあのオバサンに 如何でかそこまで尽くさんと
寝に寝に寝まくり何事も その身動かす事ぞ無く
 齢数百重ねたる 紫になんじょう尽くすやと
何もわかっちゃおられない 私はいつもそう返す
 魚心あれば水心 貰った御恩は返すもの
楽ありゃ苦もある人生だけど 今日は「楽」の日お正月
 冬眠中でも委細構わず 叩き起こして引き連れて 一家総出の初詣 
向かう神社の道すがら 団欒話の花咲けば
 これぞ紫に尽くす理由 雪も溶けよと温かき 愛し愛される家族達
  家に帰って雪見酒 私は幸せ感じつつ、橙は炬燵で丸くなる

 
浮世離れの無縁塚 あの世この世の分かれ道
 曼珠沙華も今は散り去り 死霊も遥か彼の岸へ
今一時の休息と 舟漕ぐ手をば休めれば 岸の向こうに視線あり
 ああ上司様に見つかった 毎度お約束説教タイム
暖簾に腕押し糠に釘 左に入れば右から抜ける
 ミニにタコほど聞き飽きた 説教いかでか楽しけれ

お正月にも人は逝く 閻魔様には休み無し
 めでたき日々にかく成る人は 世に哀れなる運命かな
悔やみ涙に暮れながら 残され人は神を仏を恨むとも
 逝く時誰も判らざること 万古不変の大真理
やんごとなきも賤しきも あまねく民は誰しもが
 死ねば我が手の裁きに委ね 己が行く先受け入れよ
真白く積もる道の雪には 足跡付かぬことは無し
 人の生きるも同じこと 罪無き人などこの世にあらじ
  購う想いを心に保ち 徳積むことを心がけ 今年一年多幸あれ…


けーねけーねと騒ぎつる なにぞ起こるやと訝しみ
 呼ばるるままに見たならば 娘が一人、松竹立てて大騒ぎ
不死の娘の藤原妹紅 永久に巡り来る正月も
 いつもいつまでもめでたやと 門松作りの真っ最中
これ持てあれ取れ指図のままに 手伝う私の目の前で、妹紅作るはあまりに下手な竹細工 
 不恰好たるや天下の逸品 出来上がりたるは門松以外のナニモノか
得手に帆を揚げ鋸を取る ここは我が腕の見せ所
 手足の如く操る鋸で、等しき長さに木を切り揃え 寸分違わず組み立てたなら
天に聳える立派な門松 誰もが感嘆その出来に、妹紅も感動大喜び
 正月飾りは見た目が大事、きっちり準備を整えて 年始はこれでおっけーね! 


悪魔の妹フランドールも 年末年始は浮かれ気分
 仲間とともに祝わんと 小悪魔とパチェと中国を
誘いて企む聖夜の祝い 姉もメイドも知らぬ間に
 四人が頭を突き合わせ 動き始めたプロジェクト
奇人変人知恵を寄せ合い浮かぶ案 どれもこれもが常軌を逸し
 レミリア咲夜の大目玉 それも覚悟と突っ走る
夢にも知るや深謀遠慮 重ねに重ねた大陰謀
 誰に気付かれることも無く 汗牛充棟大図書館に、秘策という名の蔵書増ゆ
めでたき聖夜の当日に 動き出したる4つの力
 知恵と魔力を捻り出し ケーキスポンジにデコレーション
見事完成クリスマスケーキ アグニシャインのイチゴ乗せ
 レーヴァテインの蝋燭ともり 紫色の大玉これは、どうやら巨大なブルーベリー?
仕上げに彩雨でいろどり添えて 紅魔脇役・特製ケーキの出来上がり  
 当然ただのケーキじゃないよ 全て本物の魔力入り
  お姉様には効かないけれど、メイドが一口食べたなら 輝く聖夜の星空に、お星様一つ増えました☆



永夜の騒ぎも開花騒ぎも 年末年始に比ぶれば
 小さき小さき騒ぎなり でも構わない、めでたきことは騒ぐべし
日を追うごとにせわしなき 師走の月も晦日を過ぎて、次は正月三が日
 幻想郷の住人すべて 各々何かを企み思い、幸せ探す十日間

餅つき羽根つき正月の 遊びも今や、幻想世界に消え去りて
 既に世に見る事ぞ無し メールで伝うる正月の、祝いぞいかにも寂しけれ
積善の家に余慶あり めでたき時を祝う者には
 必ず一年良き年になり 幸せ溢れる日々が来る

全ての騒ぎは幻想郷の 住人みんなのお祝いだ
 騒いで正月過ごせたならば、貴方にもきっと幸が来る 
  騒いで騒いで楽しんで 楽しめたなら今こそ言わん。 どうも明けましておめでとう!

                                  《完》  






 五七調の日本語って美しいよなー、という発想で書いた作品ですがとても疲れました。
 当時の自分に逢う機会があったら、はいはいよく頑張ったねーボウヤ等と頭を撫でて屈辱を味わわせてみたいところです。

 なんというかもう……
 技術云々の前に、恥ずかしいなあ。何ともはや恥ずかしい。
(初出:2006年1月6日 東方創想話作品集24)