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【スクール水着姿が可愛かった、早苗の昔話。】



 神社の窓からついと外を眺めれば、傍の小学校でプールの授業をやっておりました。
 そんな季節なんですねえ。山間に呑まれるように佇み、子供達とて決して多くない小学校の青いプールは、しかし逆に一人ひとりの黄色い声が一つずつ目立って非常に気持ちよさそうです。クラスなんて野暮なものはありません、一学年単一クラスの仲良い子供達。
 早苗も思えば、あのプールで六年間泳いでいたものでした。
 紐を絞ると底広の円錐形みたいになるプールバッグをぶら下げた夕焼けの帰り道、日焼けした身体にノースリーブの服を一枚着て神奈子さまあ、神奈子さまあと駆け寄る幼い早苗は今でも憶えています。スクール水着の肩紐の部分、日焼けの跡がとても健康的でありました。
 当時、まだ水着が紺色だった時代です。

 神様といえども信仰の死に絶えた世界でそうそう神様らしい仕事もありませんでしたから、ひどく蒸し暑い社殿で私は、ぼんやりと次のようなことをよく考えておりました。
 すなわち、最も早苗が可愛く見える水泳授業少女のシチュエーションとはいかなるものか。
 この思索は六年間に及び、決まって水無月の初頭のみに訪れました。
 プール開きという鏡開きみたいなイベントを経て間もない頃は、梅雨にかかる時期ともあってまだ寒さが名残惜しく佇むのです。この危うい季節に、私の胸は高鳴りました。
 スクール水着の色や形状や世代等すべての条件を全て揃えた上で私は色々考えますが、因数分解してゆけばゆくほど、意外に奥が深かったものです。

 1時間目、8時45分頃から10時00分頃の間。
 繰り返し確認致しますがプール開き後間もない、六月初頭の季節。
 空気さえも肌寒い中、あろうことか朝一番に水へ飛び込んでゆく早苗。見るからに寒そうでちょっと可哀想ですが、あの子のがんばる姿が一番可愛らしいのもこの時間帯です。裸に水着一枚で朝の冷水に頭まで浸かる早苗の姿を見ると、なんだかもぞもぞして居ても立っても居られないではないですか。色んな力が籠もっては抜けてもう大変です。
 小学校に入って間もない、まだ一年生の頃の早苗はこの時間帯が印象に残っております。
 まだがんばることしか知らなかった幼い早苗のイメージに、このシチュエーションが何となく合致するんだと思います。
 1時間目のプールがあった木曜日は、だからどんな神事があっても必ず抜け出して見に行きました。神様特権で人に見えない姿になり、緑色のプールサイドに堂々上がったものです。
 私はとても幸せでした。 

 次に2・3時間目。10時20分頃から12時20分頃です。
 まだ水温は朝のまま冷たい時間帯ですが、晴れた日なら気温は大分高まってきてます。
 夏の陽気に火照った早苗達ははりきり、しかしまだ冷たい水にざぶんと飛び込んできゃあと甲高い声を上げる――この辺のギャップが、最も楽しめる時間帯です。
 言い換えれば、「プール開き間もなく」という僅かしかない貴重な季節を一番象徴的に表してくれるのが、この時間帯でしょう。冷たがる早苗も笑顔がちょっぴり勝って、あまり寒すぎに見えない分余裕を持って、微笑ましく見守ることが出来ました。
 冷たいプール、そんな言葉が一番似合う六月初めの季節です。ちょっと大きめのスクール水着が、何となく似合う気がします。

 4・5時間目。昼休みを挟んだ、13時00分頃から15時00分頃の授業ですね。
 気温・水温共にピークを迎え、水遊びと言えばこの時間帯、というプールのゴールデンタイム。
 この時間に授業があったら、子供達が一番喜ぶ時間帯です。
 純粋に水に濡れて楽しむ早苗を眺めるなら、この時間帯を思い描くのが吉でしょう。特に4時間目の場合マニアックな方は、他の子供達が休憩時間で遊んでいる間に早苗の学年だけ裸になってそそくさと着替えてる、そのキャーなシチュエーションを思い描きまして御飯三杯って人も多いと思います。何というかその危うさが、人の心を猫じゃらしのようにくすぐって刺激するのでしょう。
 次第に身長も大きくなって、ちょっと大きかったスクール水着が良い感じに身体のラインへフィットしてくる四年生の頃。
 子供の残り香をまだ宿した十歳くらいの早苗が、イメージ的に合致します。
 この時間帯に相応しく、屈託無く楽しそうな想い出を脳裡に色濃く刻みつけてくれています。

 6時間目、最後の授業となる15時00分頃から16時00分頃。
 この時間帯の早苗がベストとおっしゃる方は、割と良いコースにストライクを投げ込める方です。
 開放的で爽やかな女の子を嗜好するタイプでしょう。
 まだ暑い昼下がり、ほどよくて一番気持ち良い水温の中で一日最後の授業で水泳を朗らかに楽しむ早苗。高学年の子が、このシチュには似合いそうです。
 少し大人びて落ち着きを見せた早苗が、放課後を告げるチャイムに銀の梯子を登った――あの時の光溢れる光景が私の宝物です。キャップをとって一度頭の先まで水に潜り、髪を気持ち良い水に梳いてプールサイドに上がった早苗の愛らしさは、今や神である私の筆舌すらも及びません。官能でもなく背徳でもない、少女の極めて少女らしい水着姿でした。
 子供らしい無邪気な水遊びの魅力と、しとどに濡れた女の子が放課後へ歩いてゆく後ろ姿がマッチした絶妙の時間帯です。濡れた髪がえも言われず魅力的でした。
 プールサイドのセメントが浮かべた陽炎に揺られ、シャワーを浴びてから更衣室へ帰って行く早苗はまさに、健康的な小学校生活そのものを表しておりました。身体つきも、気のせいでなく大人っぽくなり始める年頃でした。

 そして、放課後。早苗の小学校だと、17時00頃まで。
 これは意外な盲点でしょう。
 しかし放課後にも、プールというものはあります。
 早苗達の小学校は七月の終わりになると、誰も参加したがらない市規模の「水泳記録大会」という物がありました。どこにでもあるものです。足もつかないような中学校のプールに沢山の小学生が集って、強制的に飛び込み台を使わされ、25メートルクロールの記録を無理矢理計測させられて粗末なわら半紙にそれを書き込んでもらうためだけの、市の体育連盟とやらが主宰するイベントです。
 低学年の子供達はいざ知らず、高学年になると、放課後にこれの練習が課されたりしたのですね。
 一日の授業で疲れた身体を引き摺りながら、ここで重要なのは三点。一つ、水温が少しずつ冷たくなってしまう時間帯。一つ、男の子も女の子も区別無く入り交じる集団水泳。一つ、授業として行われる水泳と違い、一切の甘えや長閑さが無いこと。
 記録が悪いと先生に怒られますし、早苗も必死で頑張って泳いでいました。疲れた身体で頑張って、雫を前髪から垂らしながらその表情は真剣そのものでした。小学校六年生、あの時ほどびしょ濡れの早苗をそのままぎゅっと抱き締めたくなったことはありません。
 寒いはずなのに。疲れているはずなのに。
 がんばっている女の子って、本当に可愛くて魅力的ですよね。

 なお重要ポイントのおまけとして、日中に水泳の授業があったクラスだと「濡れたスクール水着を再び着る」という、やはりマニアックな方には堪らないシチュエーションとなります。
 濡れた水着は冷たくて独特の感触――これが生まれますことを、お話の最後に付け足しましょう。



 
 
 スクール水着というのは以上のとおり不思議なもので、着て泳いでいる女の子の時間帯によって斯くも色んな魅力が生まれてくるのです。
 まるで昔日の万華鏡を覗くような気分に、襲われてしまう。水着一枚で屈託無く夏の青空に泳げたあの日は、早苗にももう戻ってきません。これを懐旧に想う人には、もう戻って来ないのです。だから小学校で六年間泳いだ早苗は、一生分の愛らしさを25×15の小さな水の箱庭に閉じこめて、私にプレゼントしてくれました。早苗は良い子です。目を閉じれば今でも、私は濡れそぼった水着姿の早苗を背景込みのフルカラーで鮮明に思い出せます。
 やはりスクール水着姿の早苗は、いつどんなときも可愛らしいことに変わりありませんでした。プールの授業というシチュエーションにおいて殊更彼女が愛らしかったのは、水着もさておき、やはり彼女がひとえにがんばり屋さんだったからに他なりません。
 最後にラストオプションをお話ししましょう。ある小学校五年生の夏の日でした。件の記録大会を前にして、学年全体の記録の悪さを嘆いた体育教師が事もあろうに、ある一大計画を実行に移したのです。
 早朝水泳練習。
 午前7時20分から、8時20分まで。
 これこそが六年間でたった一回訪れた究極エキストラの時間帯、「授業前」です。
 まだ朝も早く涼しい朝、水だって身を切るような冷たさの中で水泳をする子供達という究極のシチュエーションです。練習ですから、遊び気分はありません。がんばり屋さんの早苗も、水着一枚になってプールサイドで震えながら、きちんとがんばって水に飛び込みました。私は、じっと見守っておりました。
 震えながらも早苗はがんばっていました。私はこの日をくれた神様と市体連に感謝を捧げました。私も神様なんですがそんなことはどうでも良い。
 このシチュエーションは、マニアックなようでマニアックでない最高級の魅力を生み出したのです。朝小学校へ出掛けてゆく早苗は、パジャマから着替える前に自室でプールバックを開きました。
 水着を取り出して、私にこう言ったのです。

「服の下に着ていくね」

 来た。来てしまいました。
 ――いつどんな時代に水泳の授業が実施されようと、必ず朽ちることのない圧倒的なシチュエーション「服の下にスクール水着で登校」。これです。
 紺色の水着を畳の上で身に着けた早苗の姿にしても、上からミニスカートのワンピースをふわっと羽織ったその下に水着を想像するたったそれだけでも、私は血圧マックスに上がって倒れそうでした。最後に赤いランドセルを背負えば完璧です。ワンピース、ランドセル、スクール水着。しかも朝から。
 地球に生まれて良かった。
 私はもう、何も言うことがありませんでした。健気でがんばり屋さんの早苗は、いつどんな水着姿も本当に可愛らしかった……しかし、その中でもあの朝の一枚は永遠のスナップとして記憶に刻まれています。朝早起きして、冷たいのを我慢してスクール水着を着てプールで泳ぐ――その非日常なシチュエーションが、何よりたまらなかった。
 可愛すぎた早苗の姿で、あの一日は、私にとって永遠に忘れられないメモリアルデーとなったのです。
 そして早苗は勿論、着替えの下着を持って行くのを忘れておりました。
 




ノーパンしゃぶしゃぶ
(初出:2009年6月12日 東方創想話作品集78)