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【いたずらジャック (短編)】

 「今日はやたら賑やかですね…」
 いつになく騒がしい白玉楼の上空。
 外へ様子見に出てきた妖夢の頭上を、無数の灯りが飛来する。

 「どうしたの…みんな騒いじゃって…」
 空には、無数の霊魂達がうろついていた。冥界の郊外にあるこの屋敷では、珍しいことだ。
 しかもどこかへ一目散にお出かけのようだ。

 「…って、あっちは現世の方じゃないですか!」
 そう、霊魂達はどんどんと白玉楼の門…つまりあの世とこの世を分ける門扉に向かって飛んでいた。
 事態が飲み込めず慌てる妖夢の横で、
 「紫の仕業ね」
 幽々子が呆れたようにつぶやく。



 「暢気なこと言ってる暇じゃないですよ幽々子様!
  この世とあの世の結界も緩んでるし。紫様、一体どうしたっていうんでしょう」
門扉の向こうに、ぼんやり現世が見えている。
結界の力が弱まっている証拠だろう。
それに向かう霊が仄かな灯りを纏い、たくさんの火の玉となって空を飾ってゆく。
ゆっくり揺らめく光の河が、空に浮かぶ。

 「何で…紫様、どうして幽明境を弄ったりなんか」
 「そうね…妖夢、あの世ってのは何で存在するの?」

 幽々子の言葉の意図が分からず、妖夢は首を傾げる。

 「こんな時に…何でって言われても…人は死んだらあの世に行くんですから…」
 「何のためにあるかって意味よ」
 「死者が暮らすため、でしょう」
 「死者が暮らすためのあの世なら、人はどうして墓参りなんかするのかしら」
 「生きてる人が故人を偲ぶため、ですか」
 「その通りよ」

 幽々子が何を言いたいのか分からず、妖夢は焦れる。

 「それで、本題ですが…この異変…」
 「本題の答えなら、その理屈を逆転させれば、答えは出るわ」
 「はあ…」

 そんな話の間にも、頭上の霊はより多く、活発になっていく。

 「生きてる人間が死者を偲ぶのは自由。いつでもどこでも出来るわ。
  でも死んだ者は違う。死んだ者が生きてる人間を偲べば、それは現世への未練となって
  幽霊となるわ。
  生きる者は死後を想っても、死んだ人間は生前を想ってはいけないの」
 「って、幽々子様はその幽霊じゃないですか」
 「死んだ人間は、死んだ世界に囲まれてしか暮らせない。
  生きてる人間の周りに現れたって、当然生き返ったわけでもない。幽霊になって、子供達をきゃあきゃあ言わせるだけね」
 「それが、今日の騒ぎと関係があるのですか」

 死んだ人間が生きてる世界を想うことが出来ない理由は一つ。
生きてる人間は死ねるが、死んだ人間は生きられない、それだけである。
アイツの分もと生きる…のは美しくても、アイツの分もと死ぬ…これは出来るわけもない。
要するに、死んだ人間が生前を回顧しても、希望も救いもなく、未練しか残らないのだ。

 では死んだ人間はもはや生前の世界とは無縁かというと…実はそうでもない。



 「それにしても、ここまで騒ぐのは、まるで…」
 「お盆並ね」

 妖夢の思いを、幽々子が代弁する。

 現世から冥界への通り道に位置するこの白玉楼が混雑するのは、妖夢が知る限り年に三度。
 一回は西行妖が見頃を迎える4月。そして、盆入りと盆明けの2回、合わせて三度だ。
盂蘭盆会という特定の時期だけ、あの世の霊魂達は顕界とを自在に行き来する。
ただそれは霊魂達の慰みではなく、現世の人間に、先祖供養の気持ちを新たにして貰うためなのだ。
だから性質的には本来、死者が未練たらしく顕界に還って行くというイベントではないのだ。
まあ、霊達は霊達で、里帰り旅行を楽しんではいるのだけれど。

 さて、花は勿論咲いていないし、今はお盆でもない。この騒ぎは一体何だというのか。


 「多くの魂は、いつでも生前に戻りたいと想ってるわ」
 幽々子が不意につぶやく。
 「死後の世界に不満な者はまず居ない。何の煩悩もない、極楽浄土。みんな幸せに暮らしてる。
  でも、やっぱり生きてる方が楽しいの。さっきの問題の答えがコレね。
  死後の世界は、生きる者の憧れでありながら、生きる世界より楽しいようではダメなの。
  さもなくば、みんな死にたがるだけ」
 「死後の世界は所詮、空想の極楽世界でなければならないということですか?」

そんなこと言われても、と、冥界に生きる妖夢は複雑な気持ちになる。
そんな妖夢にお構いなく、幽々子はマイペースに話を続ける。
 「所詮空想と諦めれば生きる輝きを失い、強く願いすぎると死に走る。あの世とは、この上ない高度な空想なの。
  それは魂達だって変わらない。死後の世界は極楽浄土だったと思ってもらわないと困る反面、死んで良かったと言われては困るの。
  生きてる時間が、何よりの幸せでなければならないんだから」
 「じゃあ、今日の騒ぎは…」

 柄にもなく真面目なことを言う幽々子に、妖夢は不思議な気持ちに包まれていたが、
でも、言いたいことは分かった気がしていた。
 生が死の裏打ちであってはいけない。死が生の裏打ちでなければいけない。
死者は生前に、生者は死後に、程よい憧れを持っていなければいけない。
だからこそ、どちらの世界でも幸せに生きられる。
ってことは、死霊が騒ぐ今宵の出来事はきっと…

 「あの霊達は、現世を強く夢見すぎているわ」
上空を見ながら、妖夢の予想通りのことを幽々子がつぶやく。霊は既に、かなりの数になっている。

 「どうしてでしょう」
 「最初に言ったけど、紫が結界を緩めたからじゃないかしらね。それで、向こうの世界がちょっと見えやすくなって、
  現世に戻ろうとしてるのよ」

ふうん…と納得しかける妖夢。しかし。
 「ちょ…ちょっと!大変じゃないですか、こんな量の霊が反魂したら、顕界と冥界のバランスが…」
 「心配しなくても良いわ。現世に戻りたがってるって言っても、彼らは観光気分よ」
 「そ…そんなお盆みたいな事…」
 「だから、紫も遊んでるのよ。コレが彼女なりの、今日のお祭りの楽しみ方」
 「あ、そうか…今日は…」



 そう。今日は、外国のお盆なのだ。
 ぽん、と手を打つ妖夢に、お菓子を渡す幽々子。
 「ちょっと、なんですか」
 「悪戯される前にお菓子あげとくわ」
 「私は何にもしませんって〜」
増えていく霊達。
二人の笑い声につられるように、霊魂達も笑っているようだった。










 「それにしても、霊達が騒ぎすぎです。紫様に言って止めてもらわないと、このままじゃ顕界が幽霊騒ぎに…」
心配する妖夢に、幽々子は笑って答えた。


 「大丈夫よ、紫なら。その辺はきちんと忠実にやってるでしょ」
 「どういう意味ですか。幽々子様」
 「ジャック・オ・ランタンよ、妖夢。あの霊はジャック。ってな訳で、かぼちゃでも準備して頂戴」


 妙ちきりんなコトを言って、楽しげな幽々子。 
 妖夢が上を向けば、霊達は白玉楼の扉あたりをウロウロしている。
顕界の方に向かったかと思えば、扉の前で引き返して元来た道を帰ろうとしたり。
現世側に行くことも出来ずオロオロと、行き場を見失ってさまよっている。

 「ジャック…そういうこと…」
 妖夢はやっと理解した。凝った遊びだこと。
 

 洒落た真似をする紫と、冥界に居ながらかぼちゃで悪霊避けする幽々子…妖夢は二人に呆れた。
このまま真面目一本ではなんだか損した気分だし、お菓子は貰ったけど悪戯しちゃおっか。
手近なところで、後で博麗神社でも襲ってみようかな。
紫様も幽々子様も勝手に楽しんでるみたいだし、今日はハロウィンだ、これくらいは楽しんでも。


                                            《完》
 




 ハロウィンについて一通り調べてネタを出した作品ですが、この頃は書くことがひたすらに楽しかったのを憶えてます。
 内容如何よりも、早く次の新作を作りたい! という気持ちが先走り、正直なところこの頃の物語そのものには強い思い入れがありません。両睨みするほど器用でなく。

 それにしても、昔はぽんぽんとよく書けていたもんです。
 今は四苦八苦。
(初出:2005年10月31日 東方創想話作品集21)