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【シンデレラ・エクスプレス−Ella's Present−】

*注意*

 この話は性質上、小町の独白と魂との会話によって大部分が構成されています。
 よって、東方的な雰囲気を離れてやや小説的な物となっています。

 またそれ故、複数のキャラ同士の絡みは基本的にありません。
 二次創作話を鑑賞されるにあたって、そういったものを定義として基本理念に置かれる方は、
申し訳ありませんがお楽しみ頂けないと思われます。


 偉そうな態度ですみませんが、あらかじめ前置きさせて頂きました。
 
 

 ○それでも良いと仰る方へ
  お楽しみ下さい。








-----------------------------------

「ふうん、お前さん、政治家だったのかい」


 三途の川の舟の上。

 
「政治家ってのはアレだろ、投票してくれる人が居ないとなれない職業だろ。
 その割にはお前さん、貧乏だな」


 渡し守、小野塚小町が笑う。




 中には無口に彼岸まで運ぶ渡し守もいるが、私は基本的にこうして、
死者の霊と会話をしながら舟を漕ぐ。
 ちなみに会話がついつい説教臭くなるのは、アノ上司のせいだと確信している。


「お前さん、相当腹黒いことしてきたみたいだな。
 いいかい、今のお前さんの手持ちってのは、生前の財産じゃないんだ。
 お前さんを慕ってくれていた人達の、財産の合計なんだ。
 人に好かれていた人ほど、金持ちになるようにできてるんだ」

 説教臭い上司の受け売り。その私の説明が、政治家の魂を黙らせる。


 現世ではとかく正直者が馬鹿を見がちで、悪賢いほど甘い汁を吸う。
 人に嫌われるほど金には好かれるのが現世の条理なのだが、
いざ河に来たらすっからかんというのが、三途の条理。

 私の経験上、そういう奴の8割は、減りきった財産をなお惜しんで渡し賃を渋り、
岸を待たずに河に落とされる。
 金に囲まれ生きてきたから、いざ貧乏になるとケチになる。
 当然と言えば当然だ。



 そんなわけで例に漏れず、政治家の魂も河の藻屑と消えた。
「バカな奴め…何が『ワシは人様に太っ腹に生きてきたのに…』だ」


 金だけ撒いてる奴ほど、うわべの信頼だけしか持たれてないもんだ。
 そんな信頼では、三途の河での財産になりはしない。

 捨て台詞を言いつつ小町は、再び河の現世側の岸に戻る…


 うん、その前に一服するとしよう。
 そう決めて岸に舟をつけ、腰につけた水筒のお茶を手に取った。



 
 私は今まで、数え切れない霊達を見てきた。
 良い霊もいれば、悪い霊もいた。
 河の両岸を往復し霊を運ぶだけの単調な仕事。なのに飽きないのは、それが理由だ。

 霊は、その人生の結晶を語りかけてくれる。
 私はまるで、いくつもの物語を毎日読んでいる気分だ。
 基本的に霊が無意識に自省を込めて人生を振り返っているだけなのだが、私はそれを横で聞くのが楽しい。
 決して私を積極的に見て話してくれてる訳じゃないのは判っているが、それでも楽しいものだ。



 次の物語を楽しみにしながら、休憩のお茶の1杯目を一気飲みした。
 そして2杯目を注がんとしたとき。


「またサボってるのね、小町」
「…はいはい、きゃんきゃん…」

 見つかりたくない人に見つかってしまった。


「貴方は少しサボりすぎるわね」
「最近仕事が多くて疲れてるんですよ〜」

 映姫への言い訳も、最近通り一遍だ。

「真面目に仕事しないと、貴方も地獄に落とすわよ」
「細木さんみたいなこと言わないでくださいよ…」
「何言ってるの。貴方だって死ねば私が裁きを下すの。
 貴方が客として河を渡るとき、懐が暖かいという確信があるかしら?」
「大丈夫ですよ、真面目に仕事してるんですから」
「死に神が真面目に働いて、尽くしたその人に好かれる自信はあるのかしら。一所懸命人をあの世に連れてって、慕われるかしら?
 前々から思ってたけど、貴方はそれに気付いてる?
 いざとなって文無しになってても、知らないわよ…?」

 脅かすような映姫の口調。
 お茶を飲む手が、止まる。
 

 私は誇りを持って職務を全うしている、という自負がある。
 この仕事を愛し、楽しんでもいる。
 サボってると言われるが、あれは自分のペースを守っているだけ。
 任された役は、きっちりこなしている…つもりだ。

 でも…映姫の言うとおり、霊達は誰も私を慕ったりははしない。
 舟の上で会話に花を咲かせても、話し相手として見ているだけだ。
 あの世へ連れて行こうとして恨まれることこそあれ、まず慕われてはいないだろう。


 私は、自分が「客」としてこの河を渡る時を想った。
 河での財産は、運賃というだけではない。
 慕った人の財産の合計…現世で集めた親愛、つまり徳の結晶である。
 それが私には…


「よく考えながら仕事なさい。貴方は嫌と言うほど知っているはずよ」

 急速に不安に陥る私をよそに、映姫は戻っていった。






「…ったく、死にたがるやつは多いのに、そのくせ死神に感謝なんてしてくれないし…ま、感謝されても困るんだけどさ」
 死を迎えたばかりのお客様を相手に、悪いと思いつつ愚痴ってしまう。
 霊に向かって愚痴るなど、こんなところを見つかれば、また映姫に説教を貰うに違いない。


『―大変じゃのう…』
「お前さん、いい人生を送れたかい?結構懐は暖かそうだが」
『―ああ、お陰様でな』
「お陰様か…あたしもお前さんみたいな人は、気兼ねなく閻魔様の元へお連れできる。
 悔いのない人生を送れただろ」

 本来死人を慰めるはずの私が、死人に愚痴をこぼすとは、と自省して、私は褒めに回った。
 なのに、その霊は黙ってしまった。
 訳を聞くと、その魂はぽつりぽつりと語り始めた。

「…奥さん?」
『―ああ、最近は喧嘩ばかりしとったが、儂には家内がおっての…あの日も喧嘩して朝家を出て、畑で儂ゃポックリじゃ』
「なるほどね。逝く前に一言謝りたかったんだ」
『―ふざけるな!そんなことあるもんか。喧嘩はみんなあいつが悪いんじゃ』
「はは、そうかい」
『―そんなことじゃないわい…儂ゃまだ、やりたいことがあったんじゃ!
 こんな急にあの世へ連れて行きおってからに、それが何も出来んかったじゃないか!』
「仕方ないだろ。それがお前さんの運命だったんだ」
『―やかましい!こんな中途半端で死んじまって、どうすれば良いんじゃ!』

 堪えていたであろう無念。
 抑えきれず、怒り出す老人の霊。
 取りなす小町に聞く耳も持たず、最後に老人は言い放った。
『―貴様は死神じゃろう!儂はまだ、やり残したことがある!話したかった人もようけおる!何故儂を選んだんじゃ!何故儂を連れて行く!
 まだ生きたいんじゃ!あいつと喧嘩もしたいんじゃ!』

 なんだか訳が分からない。だんだん言葉が支離滅裂になっている。
 どうにか宥め賺しながら苦労して岸へ送り届け、後の顛末を閻魔様に任せ終えると、私はその岸に腰掛け、溜息をついた。


 別に怒った人の相手に疲れたのではない。こんなこと自体は、よくあることだ。
 でも、今日の私は違っていた。
 映姫のあの言葉と老人を重ね、失望した。
 結局、この老人も…


「誰も…そりゃそうか…だけどなあ」
 河のせせらぎに、独り言が虚しく消える。
 どう生きればいいのか、なんだか分からなくなった。





 それからまた数日。
 
「さて、あの世までお連れしますよ」
 落ち込んでもいられない、いつも通りの日。その客は、老婆だった。


「はあ、婆さん自殺したのか…いけないねえ、人生を粗末にしちゃ」
『―私ゃどうせ老い先短い身さ』
「何を言う。お前さんを慕っていた人はどうなるんだい。それがひとりふたりでも、勝手に死ぬのは、
 その人たちへの最大の裏切りなんだぞ」
『―そうは言っても、どうにも寂しくてねえ』

 老婆の魂は、本当に寂しそうな声でつぶやく。

『―爺さんに先立たれて…』
「後を追ったのかい」
『―あの人、本当に急に逝きおっての。朝元気に家を出て、畑で倒れてたのさ。
 前の日まで私と毎日元気に喧嘩してたってのにさ…
 今更ひとりじゃ生きられなくってね』


 聞き覚えのある話だった。
「おい、それって…」
 驚きながら、私は事情を話した。




『―そうかい、あの人もアンタが運んだのかい』
「ああ…だが婆さん、自殺はいけないよ。爺さんだって怒るぜ」
『―あの人とは喧嘩ばかりだったのさ、怒られるのは慣れっこさ』
「そりゃわかるが…」

 苦手なタイプである。
 自殺は責められて然るべきだが、責めるわけにもいかない。

「悪いが、爺さん喧嘩はみんなお前さんのせいだって、わめいてたぜ。
 お前さんの想いに、応えてくれるかどうか」
 一方通行の想いを気の毒に思い、私は先に説明した。
 しかしそれを気にも留めぬ様子で、
『―はは、あの人は頑固だったから』
 老婆の魂は笑い飛ばした。
『―その分誠実で、真面目で。どんな人からも好かれとった』
「その誠実さに惚れた、ってかい?」
『―ああ。
 誠実はそれだけで人を惹きつけるんじゃよ、死神さん?』


 悲しむ素振りもない老婆の、何気ない一言。
 その一言が、ふと映姫の言葉をまた私に蘇らせた。


「いいねえ、でもあたしは死神だから。真面目に生きたって、誠実に働く分だけみんなに恨まれちまう」
 老婆の話に羨望を憶え、思わずまた愚痴をこぼす。
『―あの人だって、決して華やかな職じゃなかったさ。政治家でも、社長さんでもない。
 さして人に好かれる職でもない。それでも、誰より誠実じゃったから、皆に慕われた。
 あの人はこの河で、たくさん手持ちがあったろう?』
「ああ…」
『―死神さん、アンタだって同じ。一所懸命仕事してれば、人様もお天道様も見てくれるさ』

 優しい言葉は嬉しいが、数え切れない現実を見てきている私は、どうにも素直になれない。
「それならいいがね、私の仕事は死出の旅の手助けだぜ?」
 そう自虐的につぶやく。
 うつむくそんな私に、
『―勘違いしておらんか。ひとはみな死ぬ。生きる者、いずれは別れがあるんじゃ。
 定めに従ってあの世に連れて行かれるなら、アンタを恨む奴などおらんわい』
 老婆はさらに励ましてくれる。



 ありがたかった。 
 私自身は分かりきっていることだが、人間には…分かってもらいにくいことだった。


『―アンタ、エンキョリレンアイって知ってるじゃろ』
「年取った婆さんの口から聞く単語じゃないが、知ってるな」
『―始発列車で向かい、一日遊んで、最終列車で別れゆく。
 その時残される女は、時間通り巡り来る電車の運転手を恨むかね?
 そんなこと思やしない。悲しみつつ、次に逢う日を楽しみにするさ』
「…」
『―あの人が逝って私は、逢うのが楽しみでたまらんかった。
 待ちきれなくて待ちきれなくて、とうとう自分でこっちに来ちまった。どうにも嬉しくてねえ』
「嬉しかった…?」
『―ああ、まだあの人を好きでいられたのが、自分でうれしかったよ。
 私ゃ最近あの人と喧嘩ばかりで、こんな偏屈者どうでも良いわと思っとった。
  じゃが死なれて分かった。私は、まだあの人と…喧嘩してたかったんじゃ』


 はっとした。
 支離滅裂だと思った、あの爺さんの言葉。もしかして―


『―アンタも悩むな。死にゆく者が遺すのは、悲しみだけじゃないんじゃ。
  どのみちアンタが恨まれる筋合いはない。
  アンタは私に、あの人を想う気持ちを気づかせてくれた』
「世の中お前さんみたいなのばかりだといいが…大抵は…」
『―人間は死ねば、恋人は距離を置けば…その人が恋しくなるもんじゃよ。誰しもな』
「…」
『―とにかく誠実に人と向き合いなされ。
  誠実に向き合ってくれたら、死んだ人は幸せじゃ。
 死んだ人に感謝されるのも悪くないじゃろ?』



「誠実に、か…」

 目の前にいる魂が、先生のようだ。
魂に教えを諭されるなんて、まだ未熟者だ…。



 あの日爺さんが言った「喧嘩していたかった」という言葉。
 爺さんは爺さんなりに、この人への想いに気付いていた。
 彼もまた死してやっと、忘れていた大切さに気付いていた。

 婆さんの見込み通り、彼は誠実な人だった。
 私は、本当に未熟者だった。そんなことも気付かないなんて。



「私に、見てくれる人がいるかどうか分からないが…」
『―そうそう、誠実にな』
 やっと心を開いた私に、老婆は嬉しそうに言う。
「誠実も良いが、お前さんも死に急ぐのはいただけないな。そんなことしたって爺さんは…」
 ―喜ばんじゃろうな。怒られに行ってくるわい
 
 せめてもの体面繕いで発した私の「老婆心」を、案の定、婆さんはとうに分かっていたようだった。
 分かっていて、それでもこの人は…。



「そこまで分かってて、自ら死んだのか…
 お前さん、馬鹿だよ。まったく…」
『―ああ、バカじゃ。どうしようもない、大バカじゃ…』



 向こう岸が見えてきた。もうすぐこの魂ともお別れだ。
『―誠実な人、必死な人は綺麗じゃ。私はあの人を好きじゃった。
 アンタは、人に人の大切さを教えられる。誠実に、がんばりなされ』

 別れを惜しむかのように、最後のエールをくれる老婆の魂。
 彼岸に渡るのを見届けて、私は最後に言った。

「生きてる間…さぞいい人だったんだろうな」
 老婆は、恐らく笑顔を浮かべて、
『―ああ、とっても素敵な男じゃったよ。一目惚れじゃ!』
 冗談っぽく私にそう返した。




「爺さん一人のことを、言ったんじゃないんだぜ。婆さん…」
 去っていくその魂に、私は小声でつぶやく。
 そして、本当に最後、今度は聞こえるように大声で、叫んだ。

「爺さんに、会えると良いねえ!」

 老婆が、手を振ってくれた気がした。






-----

 老婆はああ言ってくれたが、死神を恨む者はいる。
 止められぬ時の流れに、必死で抗う人達。それでも止められず、果てに運命を恨む。
 それは今更嘆いても仕方がない。


 今日、恨まぬ人間に一人出会えた。
 彼女は私の手で大事な人と引き裂かれ、それでも時を、運命を恨まなかった。
 大事な人への想いに気づき、自らの運命を捨ててまでその人を追った。

 
 私は役目を負っているのだ。
 私の力でどうするものではないが、きっと人に何かをもたらせる。
 生きる人の涙、それこそが私の役目。

 コト自体は勿論褒められないが、後追いするほど一人の人を想った老婆がいた。
 私はいわばこの手で、その想いを気付かせたのだ。
 私の力。後悔も、未練も、感傷も…私がもたらせるというのなら。



 ならば、誠実に生きるだけ。
 あの老婆が教えてくれた、誠実という名の光を、私も纏いたい。強くそう思う。

 死は、救いのない出来事なんかではない。遺された者に、宝物をくれる。
 あの人に何故言わなかったのか、どうしてこの気持ちに気付けなかったのか。でも、いつかは出会える。
 後悔と希望の交錯。何よりの宝物。

 そして、その希望が叶うときは、是非私が運んであげたい。誠実に、運ぶことを約束しよう。





「最近少しはサボらなくなったわね、小町」

 映姫も驚くほど、私は前より仕事に勤しんでいる。

「ええ、お陰様で」
「お陰様?誰のお陰様よ?変なこと言って」
 映姫は不思議そうに首を傾げる。



 お陰様。あのお爺さんが言った、何気ない言葉。
 人は常に誰かに支えられている。そのことをたった5文字で表した、美しくて温かい日本語。

 あの二人の「おかげ」で私もまた、大切なものを取り戻した。
 これから何があっても自分の仕事には、いつでも誠実でいよう。
 この仕事を愛し、この仕事を頼る人を愛する者でいよう。
 そうしていれば、誰かがきっと、見てくれてる。



 一人の誠実な老人と、一人の一途な老女。
 お爺さんが言った「お陰様」という言葉。お婆さんが言った「誠実」という言葉。
 二人はきっと天国で、幸せに大喧嘩するに違いない。

 誰かが誰かを遺して逝く。遺された者はその人を追い、再会を夢見、そしてまた誰かを遺して逝くのだろう。
 世界はそうやって、廻っていく。





 生きてる人へ。
 私は、死を運ぶ者。
 大好きな人の長い別れを貴方に告げる、人生の終電だ。
 いつか私は貴方から、大事な人を奪い去る。
 情けも容赦も一切無く、貴方の元から奪い去る。
 だから、その前に気付いてて欲しいことが、沢山あるのだ。

 
 たいせつなものは、たくさんある。人はみな、シンデレラだ。
 私に気付かされるようでは、本当は遅い。
 ガラスの靴になってからでは、遅いんだ。


                                           《完》





 どうにも注意書きとか自分で気に入らないんですが、まぁ原典のまま掲載しますよということで。

 映姫と小町の物語は後々にもいくつか書くことになるのです。小町っちゃんも好きだけど映姫様も好きだ。
 ただ、映姫様って人は本当にSSで使うのは難しいですね。
 威厳溢れる委員長キャラがロリっぽくて可愛らしいってのはとても大好きなシチュエーションなんですが……と、ざっくばらんにそんな形容をしてみる。
 映姫かわいいよ映姫。
(初出:2005年11月5日 東方創想話作品集21)